REAL BOOK (Xtrawatt) |
| - Steve Swallow |
|
|
Steve Swallow (b) Tom Harrell (tp) Joe Lovano (ts) Mulgrew Miller (p) Jack DeJohnette (ds) 1993/12月 |
|
|
|
「エレクトリックベースは4ビートには不向きだ」 「4ビートはウッドベースでなくてはならない」 そう思っているジャズファンも多いのではないだろうか。 私は大学2年になってからベースを始めたが、エレクトリックベースを選択した。 ヘヴィメタルも好きで、パンクバンドもやってた私は、ジャズだけではなく様々な音楽のベースを弾きたいと思っていたのだ。 また、自宅で多重録音もしていたので、ウッドベースよりは汎用性が高く、録音も容易なエレキのほうが有利だという判断もあった。 それに、大学の部室以外に、外のスタジオでも練習していたので、携帯性の面をとっても圧倒的にエレキのほうに魅力を感じたのだ。 ベースを始めた年齢が周囲のベーシストと比べると圧倒的に遅かったことにハンディキャップを感じたので、エレキベースを購入したら、すぐにプロの元で習いはじめた。 さいわい、与えられた練習の課題や、今自分がやっていることの意味を言語化して理解、納得出来る年齢になっていたので、比較的上達は速かったと思う。だから、怖いもの知らずの勢いで、ジャズ研の定期演奏会や、ジャムセッションに積極的に参加したりもした。 しかし、エレキベースを担いで、ほうぼうに出没する私に注がれる目線は、「なんで、この人エレキなんだろう」「エレキで4ビートねぇ」的な反応ばかり。 「ジャズやるんだったらウッベ(ウッドベースのこと・ジャズに染まった連中が使ういやぁ〜な省略語)やればいいのに」という無言の視線がズキズキと突き刺さってくるのだ。 予想以上に、多くの人にとっての4ビートは、ウッドベースで奏でられるもの、という認識が出来上がっているのだということに、初めて気がついた私。 はやく気づけよ、って感じですが(笑)。 「ジャズのベース=ウッドベース」という認識は、ピアノでいえば、エレクトリックピアノなんて言語道断、といった考えに近いのかもしれない。 ビル・エヴァンスも、エレクトリックピアノに手を染めたアルバムは、発売当時、保守派ファンからは非難ごうごうだったというから。 しばらくしてから、私もウッドベースに手を出すようになった。 そして、ウッドベースを弾くようになってから気がついたことがある。 やっぱり音色が違う。 ウッドベースの音は、確かに包み込むように暖かく、魅力的な楽器だということはよく分かった。 1音だけ、弦をボーンとはじいたときの音色の情報量と豊穣さは、エレキベースの単一なトーンからは想像もつかないほど豊かなことは認める。 しかし、「4ビートにはウッドベース」という一般の認識に反論するようだが、エレクトリック・ベースでも優れた4ビートを奏でるベーシストはたくさんいるし、4ビートに相応しくない楽器だとは私は思わない。 エレクトリックだからこそ出せるノリやグルーヴ、奏法もあると思うのだ。 私の中でこの人は!という優れた4ビートを奏でるエレクトリック・ベーシストを3人挙げるとすると、 まずは、ジャコ・パストリアス。 16ビート系のベーシストと認識されがちだが、彼の4ビートは抜群にスイングしている。 語弊があるかもしれないが、ニールス・ペデルセンがエレキベースを弾いたらこんな感じになるんだろうなと思わせるノリ。 少し突っ込み気味のビートで、ひたすら、演奏者とプッシュする感じ。 また、リズムが脈打つ感じは、ウェザー・リポートにおいての彼の前任ベーシスト、ミロスラフ・ヴィトウスにも似ているかもしれない。 抜群のスピード感を誇りながらも、グルーヴの根っこは存外重たいのだ。 いずれにせよ、白人ベーシストの最高峰に位置するアコースティックベース奏者のニュアンスに近い4ビートを奏でる、優れたエレクトリックベース奏者だ。 2人目は、アンソニー・ジャクソン。 彼は、ピック弾きの達人でもあり、その正確すぎて気持ち悪くなるほどの粒立ちとアタックの統一感は、スティーヴ・カーンやミッシェル・カミロなどのアルバムでじっくりと味わえるが、彼が指で弾く4ビートの高揚感はなんとも言えない極上のものだ。 とくに、晩年のミッシェル・ペトルチアーニのトリオでスティーヴ・ガッドとともにリズム隊を勤めた彼の親指弾きの4ビートは、重く静かに脈打ち、躍動している。ペトルチアーニの華麗かつ情熱的なピアノを手堅くサポートしながらも、刺激を与えつづけ、演奏全体の格調を高めていた。 アンソニーのエレキベースによる4ビートのグルーヴ感は、彼にしか出せないワン・アンド・オンリーのノリだ。 最後にもう一人。 この人が、今回挙げた3人の中では、一番ユニークなエレクトリック・ベース奏者かもしれない。 彼の名は、スティーヴ・スワロウ。 スティーヴ・スワロウは、最初はウッドベース奏者だった。 アート・ファーマーやスティーヴ・キューンとの共演が彼のキャリアの中では有名だ。 彼のウッドベースは、誰にも似ていない、思索的で先の読めないラインを奏でており、控えめなプレイながらも妙な存在感を放っていた。 エレキベースの魅力にはまってからのある時期、ウッドベースからエレクトリックベースに転向したスワロウ。 最初はフェンダーのプレシジョンベースというごくごくオーソドックスな定番中の定番ベースを使用していたが、ある時期を境に、オリジナルの特注ベースを弾くようになった。 このオリジナルベースの形が面白い。 まるで、シュールレアリスムに傾倒した彫刻家がデザインしたオブジェを思わせるような3次元曲線で構成された複雑な形態のボディ。 木の材質も、センという、あまりベースの材料には適さないといわれている珍しい木を使用し、さらに、弦の本数も、4弦ではなく5弦になった。 このベースを、彼はピックで弾く。 指弾きではなく。 指で弦をはじくということは、柔らかい肉で弦にアタックを加えるので、暖かく太い音がする。 それに対して、硬いプラスティックで指よりも面積の狭いピックで弦にアタックを加えると、尖がった鋭い音色が発せられる。 たとえば、セックス・ピストルズのライブのビデオを観ると、ベースの弦にピックを叩きつけるかのようなピック弾きをしているシド・ヴィシャスの姿が認められる。 パンクバンドや、日本の多くのビジュアル系と呼ばれているバンドやインディーズ系のロックバンドのベーシストはピック弾きをする人が多い。 そのほうが、音に迫力が出る上に、リズムをキッカリとタイトに打ち出すことが出来るからだ。 その上、ピック弾きのほうが、指弾きよりも気軽にトライすることの出来る奏法なことに加え、指弾きのときのように指先に水膨れを作ることもない。 だから、以外とお手軽な奏法ではあるのだ。入り口の部分では。 しかし、この奏法を極めようと思うと、なかなか奥の深い演奏方法でもある。 たとえば、アンソニー・ジャクソン。 大きな6弦のベース(本人はコントラバス・ギターと呼んでいるが)を抱え込むように持ち、一音一音を正確に弾いている。 彼の音の粒立ちやコントロール技術は職人を思わせるほど並外れて正確だ。 シドとアンソニー、この2人はピックを使うことにおいては共通しているが、求める音楽的な効果はまったく別のベクトルを向いているのだ。 ピック弾きというのは、乱暴に弾こうと思えばいくらでもラフに弾くことが出来る反面、正確に弾こうと思えば、それこそアンソニー・ジャクソンの針の穴を通すような正確な奏法のように、精度を極めることの出来る奏法でもあるのだ。 しかし、ジャズの4ビートはどうなのだろう? ピック弾きで、アタックが強く、立ち上がりの鋭い音色は、ジャズの4ビートには不向きなんじゃないか? アンソニー・ジャクソンだって、4ビートを奏でるときはピックよりも指弾きのほうが多いぞ…。 そんなこちらの先入観を、スワロウはいとも簡単に破ってくれる。 ピック弾きにもかかわらず、音色が非常にマイルドなのだ。 指弾きよりもアタック感も出せ、なおかつ音の粒立ちのコントロールも(しようと思えば)可能なのがピック弾き奏法のメリットだが、逆にデメリットとしては、音に温かみが生まれにくいこと。どうしても、弦への接地面積が広い指弾きによる音の太さと比較すると、瘠せた音になりがちだ。 しかし、スティーヴ・スワロウの奏でる4ビートのベースは、粒立ちが正確な上に、音と音のつながりにスキマがまったく無いゆえに感じられる暖かな円やかさがある。 さらに、ベースソロを奏でると、ピック弾きのアタック感の強さが存分に発揮され、まるでギターがソロを取っているような澄んだ美しい音色が生まれる。 とにもかくにも、そんなユニークなベーシスト、スティーヴ・スワロウが奏でる4ビートをこれでもかというほどに堪能できるのが、『リアル・ブック』だ。 「リアル・ブック」とは、ジャズ研の部室や、ジャムセッションの出来るジャズ系のライブハウスや、ジャズマンの部屋の床に転がっている可能性の高い、いわゆる「ジャズ曲譜面集」だ。 五線譜上のメロディラインと、その上にはコードネームが表記されている。 場合によっては管楽器なんかの簡単なヘッドアレンジも記されていることもあるが、要するに、ジャズマンの演奏ネタ帳とでもいうべき、譜面集なのだ。 多くのジャズマンやアマチュアが、この譜面をめくりめくり、「次は何の曲をやろうか?」と物色しているのだ。 多くの場合、『リアル・ブック』はページの隅がボロボロになっていたり、製本が崩壊しかけて、取れかかったページが何ページもあったり、表紙が汚れていたりと、本の体裁をかろうじてなしている状態のものが多いのは、徹底的に「使う」ための本だからだ。 スティーヴ・スワロウの『リアル・ブック』のジャケットも、リアルブックの表紙を模したデザインになっている。それどころか、きちんとこぼれたコーヒーのシミや、皺や汚れなども印刷で表現されているところが面白い。 もちろん、『リアル・ブック』というタイトルだが、演奏されている曲はリアルブックに記載されているスタンダードではない。 スワロウのオリジナルだ。 しかし、面白いことに、CDジャケットをかねた小冊子をめくると、リアルブックよろしく、スワロウのオリジナル曲が、5線紙上に、まるで本物のリアルブックの筆跡を真似たかのような手書き文字で、記されている点。 これを見れば、気に入った曲を演奏できるというわけだ。 このアルバムの中には、面白いメロディラインの曲、キャッチーなメロディの曲、叙情的な曲と、様々なタイプの曲がバランスよく配されており、収録の10曲で、小さなリアルブックを形作っている。 ヒステリー発作風なメロディにジャック・ディジョネットのドラムが暴れに暴れる《バイト・ユア・グランドマザー》。 リラックスとした小気味良いブルースの《セカンド・ハンディ・モーション》。 スローテンポのバラードに、まるでギターのような音色のベースソロが絡む《ロング・トゥゲザー》は、ひたすら美しい。 チョーキング(弦を引っぱって音程を微妙に上げること)を多用しているところが、より一層のギターらしさを強調している。 ノリよく、メロディシンプルで、ジャック・ディジョネットの煽りも素晴らしい、やる気が出てくる曲調の《アウトフィッツ》。 トム・ハレルが大活躍だ。 刑事映画などの事件解決後のハッピーエンドなラストにも使えそうな曲調の《シンキング・アウト・ラウド》。 イントロのベースソロと、ラテンフレバーなメロディが魅力の《レッツ・イート》は、じわじわと熱くなってくるところが良い。 ジャッキー・マクリーンが知ったら好んで取り上げそうな哀愁のハードバップを連想させる《ベター・タイムズ》は、スイートながらも大甘になり過ぎないスッキリ仕上がり。 これまたスワロウのベースソロの音色の美しい《ウィロウ》は、このアルバム唯一の3拍子。 《マディ・イン・ザ・バンク》のメロディは、悪いけれども日本のデキそこないフュージョンバンドが作曲したかのようなメロディで、あまり良いテーマとは言いがたい。 しかし、このへっぽこテーマの後に登場するマルグリュー・ミラーのピアノのお陰で、演奏はある程度の品格を取り戻している。 《ポニーテイル》は、ラストを飾るに相応しい抑制の効いたテンションと、軽快なミドルテンポに乗って、流れるようなメロディが次々と奏でられる。 駆け足で、各曲の特徴を取り上げてみたが、夢中になって聴いていれば、それこそ、あっという間に10曲が通り過ぎて行ってしまうほどの内容だ。 ジャック・ディジョネットのメリハリの利いたドラム、 トム・ハレルの流れるようなトランペット、 ジョー・ロヴァーノのトグロを巻くテナーサックス、 どこまでも明るく、旋律もハーモニーも立体的で分かりやすいマルグリュー・ミラーのピアノ。 彼らの演奏が生き生きと輝いているのは、スティーヴ・スワロウの優れたエレクトリックベースによって奏でられる4ビートに支えられているからと言っても過言ではない。 スワロウの端正で粒立ちの優れた柔らかく蠢く低音と、バッキングのときは決して前にしゃしゃり出ないベースラインは耳で追いかけてゆくうちに次第に心地よいリズムと音色に首をふっていることに気がつくだろう。 あけっぴろげに、ドカン! と臆面もなくグルーヴィというわけではない。 イーブンでフラットなノリで繰り広げる彼の4ビート空間はどこまでも知的な躍動感に貫かれている。 そして、これはアコースティックベースには出せず、エレクトリックベースでしか生み出しえない、音、ノリ、抑制と躍動感だ。 4ビートにエレクトリックベースは似合わないと思っている人は、是非、スティーヴ・スワロウの『リアル・ブック』も聴いてみてくださいね。 |
| (2005/11/06) |
|
|
|
|
All Rights Reserved. |