DUB ORBITS (EWE)
- 菊地成孔ダブ・セクステット

  1. (I've lost my) Taylor Burton
  2. Koh-I-Nur
  3. Orbits
  4. Despute
  5. Ascent
  6. Monkey Mush Down
  7. Dismissing Lounge From The Limbo

菊地成孔(ts,CDJ,key,bongos,whistle)
類家心平 (tp)
坂口昌彦 (p,celeste,kaose Pad,"M" operation)
鈴木正人(b)
本田珠也 (ds)
バードン木村 (Digital Effects,Kaoss Pad,Handmade Analogue Synthesizer)

2008/4/24,28 5/1

少々辛口に言い切ってしまうと、いくらダブ・エンジニアをメンバーに加え、演奏にエフェクトなどの加工を施す“新しい”切り口を盛り込んだとしても、アルバムの多くを占める演奏そのものは、ハービー・ハンコックや、ウェイン・ショーター在籍時のマイルス・クインテットの演奏のコピーの域は出ていない。

そして、演奏そのものは、40年前のマイルス・クインテットを凌駕するものでもない。

もちろん、この時代のマイルス・クインテットの演奏は私も大好きだから、マイルス・クインテットのように高度な演奏をする2管クインテットの存在は嬉しい。

しかし、そのいっぽうで、「なんで21世紀の今頃に、60年代のマイルスなわけ?」ともチラリと思ってしまうことも確か。

菊地成孔の本音は(おそらく)、「マイルス大好き!」「マイルスみたいなバンドを作って、マイルスのような演奏をしたい!」という単純な衝動と欲求なんだと思う。

しかし、それだけだと、対外的なアピール度が弱い。
菊地成孔ブランドとしての訴求力も弱い。

だから、というわけではないが、もうひと捻りをしてみよう。
捻らずとも、軽くスパイスをまぶそう。

そう、DJの存在。エフェクト係の存在だ。
2管クインテットの演奏だけでは、“いかにも”なストレートアヘッドな演奏にしかならない。

しかし、これにスクラッチやエフェクトの要素をかませば、安直かもしれないが、40年前のアコースティック・ジャズの手法と、“最新?”テクノロジーの融合という“切り口”は生まれる。

“演奏”の方法論は40年前のマイルス・クインテット時代のものではあるにせよ、“切り口”としての方法論は、取りあえず誰もやっていなかったぶん、新しくはある。

土台・骨格は古く、装いは新しいバンド。
それが、菊地成孔ダブ・セクステットなのだろう。

もちろん私の勝手な想像で書いているので、本当のところはわからない。

しかし、「ダブセクステットって何?」と聞かれた場合、「DJ付きのマイルスコピーバンド」と説明するのが一番話がはやいと思う。

では、DJ、エフェクト係の存在はどれぐらい音楽に機能しているのかというと、このアルバムに関していえば、かなり控え目に感じる。

一瞬CDプレイヤーが故障したのかな? と思わせるような、リズムの流れがブツ切りされる箇所がいくつかあるものの、エフェクトの使用は控え目。
演奏に対しては、露骨な汚しやエフェクトはかけられていない。

むしろ、生演奏中に露骨なエフェクトや、演奏のサンプリング音をリアルタイムで絡ませるという手法に関しては、ジャンルは違うが、椎名林檎の『勝訴ストリップ』というアルバムのほうが露骨でエグくカッコいい。

逆にいえば、『ダブ・オービッツ』の場合は控え目な音飾ゆえ、ストレートアヘッドな4ビートジャズとしても十分聴ける内容だといえる。

ダブセクステットならではの、露骨な「効果」、演奏に施されたウエザリング(汚し)が楽しめるのは、ライブ盤の『ダブ・セクステット・ライブ・イン・トーキョー』のほうがはるかにエグくて心地よいと思う。

では、このアルバムの魅力はなにかというと、それはもう、なんといっても、《モンキー・マッシュ・ダウン》だろう。

マイルス・デイヴィス黄金のクインテットを現代風にリメイクすることが、本アルバムの骨子なのだろうが、個人的にはこのコンセプトからは外れる同曲に非常なる魅力を感じる。

痙攣するかのようなウッドベースの16分音符弾きが心地よく、人を食ったような軽やかさがもたらす快感は尋常ではない。

特に『オン・ザ・コーナー』好きは、ニヤリとするに違いない。

キッチュなメロディといい、随所に挿入されるハンドクラップといい、これは、もう完全に『オン・ザ・コーナー』の《ブラック・サテン》のオイシイところを頂戴して作られた内容だ。

とはいえ、ワンコードでひとつのパターンを執拗にループさせることによって快感のボルテージを上げてゆくマイルスの《ブラック・サテン》と異なるところは、《モンキー・マッシュ・ダウン》には、構成がある。

コードの流れもあれば、サビのメロディも用意され(サビのメロディはメロウなR&Bに似合いそうな旋律だ)、展開と発展のある構成となっているところが聴きやすさにもつながっている。

そして、表面的には露骨なほどに《ブラック・サテン》を感じさせるテイストながらも、演奏の方法論は、徹頭徹尾ジャズロックそのもの。

リズムパターンは一筋縄でいかないかもしれないが、演奏の根底にあるものはジャズロックだ。

特に、ピアノのバッキングはジャズロックそのもの。

あえて低音域をカットし、深みを抜いた音色でのバッキングはこそばゆく、心地良い。

『ダブ・オービッツ』の中では、もっとも異色でキッチュなナンバー、《モンキー・マッシュ・ダウン》のメロディ、そしてアレンジの小気味良さは、まさに大学での講演(東大→慶應→芸大)から、驚くべきペースの文筆活動までを幅広くこなす、菊地成孔ならではの軽やかさが表れていると感じる。

間違いなく、個人的にはこのアルバムの中ではキラーチューン。そして、《モンキー・マッシュ・ダウン》こそ、『オン・ザ・コーナー』の仮面をかぶった菊地ミュージックなのだ。

この強力な1曲ゆえ、『ダブ・オービッツ』は、ジャズに興味はなくとも感度の高いリスナーから、ジャズマニアきまで、幅広い層にオススメできるアルバムなのだ。
(2009/06/13)

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