THE ILLINOIS CONCERT (Blue Note)
- Eric Dolphy

  1. Softly,As In A Morning Sunrise
  2. Something Sweet,Something Tender
  3. God Bless The Child
  4. South Street Exit
  5. Iron Man
  6. Red Planet
  7. G.W.

Eric Dolphy (as,bcl,fl)
Herbie Hancock (p)
Eddie Kahan (b)
J.C.Moses (ds)

1963/03/10

もちろんアルトサックスのプレイも好きだが、私はドルフィーのバスクラリネットが大好きだ。

彼のバスクラのプレイを「馬のいななき」と評したのは、かのマイルス・デイヴィスだったが、まさに言いえて妙。
しかし、動物的な野生さのみならず、宇宙的不気味さも伴っているのでは、と私は感じる。

正体不明な不気味美しい軟体物質。

バスクラ特有のヌメヌメした高音の成分と、ブギッ!と濁音交じりの低音成分は、人知の理解を超えた不可解なる音の結晶だ。

『ラスト・デイト』の《エピストロフィ》の出だしの咆哮で度肝を抜かれた人。あるいは、ヨーロッパのライブ音源で何度も耳にすることの出来る解体・細分化されたビリー・ホリデイの《ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド》のバスクラプレイに魅了された人。そんな人は是非、最近発掘された貴重なこの音源にも耳を澄ませてほしい。

もちろん、バスクラ以外の楽器も演奏しているが、このアルバムは、ドルフィーのバスクラリネットの長尺演奏が楽しめるのだ。

なんといっても《朝日のように爽やかに》のバスクラのプレイが良い。

ハンコックのきめ細かに繰り返されるバッキングが効果的。
ドルフィーもそれを意識してか、いつもよりフレーズとフレーズの間を大きめに空け、思索的なプレイを繰り広げる。

ドルフィーが繰り出す短いフレーズは、そのその瞬間においては素っ頓狂に聴こえるかもしれない。しかし、これらの集積が時間の経過とともに少しずつ意味をなしてゆくのだ。

囲碁でいえば、何十手も前に打った石が、突然効いてくるかのように、ドルフィーは長尺演奏のフォーマットを最大限に活かし、未来への布石を一手、一手着実に打ち込むかのようなアドリブを繰り広げている。

《朝日のように〜》に次いで印象深いのが、『ラスト・デイト』でも演奏されている《サウスストリート・イグジット》。フルートが軽快に妖しい旋律を奏でる印象深い曲だ。

私は『ラスト・デイト』で、この曲に強く惹かれていたのだが、他のアルバムを探してもこの曲が収録されているものはなかった。『ラスト・デイト』でだけの演奏かと思いきや、こんなところで演奏してましたな新たなる発見。
『ラスト・デイト』よりも早めのテンポに乗って、ドルフィーは怪しく軽やかにフルートで疾走してゆく。
いまひとつフルートの音量バランスが低いのが残念だが…。

この演奏でのドルフィーは、ハンコックのピアノソロを強引に奪ってテーマに捻じ戻している。
コルトレーンとのライブ『インナー・マン』の《ミスターPC》でも、ドルフィーはコルトレーンから強引にアドリブパートを奪っている。

この2例だけを持ち出して彼の性癖を云々するのも難だが、ドルフィーは納得いかないソロを取る人からは容赦無しに制裁を加える(=ソロを奪ってしまう)人なのかもしれない。
品行方正で物静か、大人しい青年だったと多くの人がドルフィーを語っているが、こと演奏に関しては、獰猛な肉食獣だったのではないだろうか?

いずれにしても、ハンコックからソロパートを取り上げる箇所の攻防戦はスリリングだ。ハンコックも粘ってなかなか止めようとしないし。

このような、ぶっ飛んだドルフィー、ハンコックによる近未来的なジャズが演奏されていた頃、日本では『鉄腕アトム』や『8マン』、それに『鉄人28号』がモノクロでテレビ放送されていた。

本当にこの四次元的演奏は、同じ時代に起こった出来事なのか?
そう考えると不思議な気分に陥ってしまう。

1963年イリノイ大学においてのライブ音源。
当時のハンコックは、23歳。

《レッド・プラネット》、《G.W.》には、イリノイ大学の学生ビッグバンドが参加し、演奏に色を添えるが、べつに参加してくれなくても良かったんじゃないかなぁ、なアレンジ。ま、ご愛嬌ということなのか。

もっとも保守的かつ控えめに演奏を薄く彩るブラスアレンジがあるからこそ、逆にドルフィーの前衛性、特異性が浮かび上がっていることも確か。
(2006/10/01) 

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