ERIC DOLPHY IN EUROPE vol.2 (Prestige) |
| - Eric Dolphy |
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Eric Dolphy (as,fl) Bent Axen (p) Erik Moseholm (b) Jorn Elniff (ds) 1961/09/06 & 08 Copenhargen |
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私が学生時代からの馴染みの店なんです。 と、ある女性に連れられて入った池袋のジャズバーは、狭くて小汚い、それでも妙に心落ち着く内装の店だった。 木造のL字型のカウンターの上には、酒のツマミになる缶詰が無造作に積まれている。 この缶詰の前には、厚紙にマジックの手書きで“もってけ泥棒”とでも言わんばかりの値段が書きなぐられていた。 ヤニでまっ黄色に染まった壁には、日本のフリージャズマンのポスターばかりが貼られていて、その多くがこの店で行うライブの告知だった。 もっとも、ライブの出来るスペースなど見当たらないのだが。 まさか、カウンターの上とか? あるいは、入り口近くの少しだけ広いスペースを利用するのかもしれない。 フリージャズが中心の店なの? うーん、私、そのへん、全然詳しくないんですよ。でも、この店で流れるジャズはみんな好きですよ。なんか、こう大音量でゴン!と“叩かれる”ような感じが心地よいというか……。 “叩かれる”。 なるほど、フリージャズがよくかかる店のようだ。 しかし、今現在、この店でかかっているのはロリンズの《ドント・ストップ・ザ・カーニヴァル》。 聞きやすい、オーソドックスなものもOKなわけね。 レコードが終わり、マスターが新参者の私に「何か聴きたいのあるかい?」と尋ねてきた。私は、反射的に「エリック・ドルフィーが聴きたいですね」と言った。 ロリンズもかかり、おそらくアイラーやテイラーなどもかかっているであろうこの店、いきなり濃すぎるフリージャズを頼んでヒンシュクを買うのもつまらない。 だから、ドルフィーで相手の反応を小手調べ。 アンタ、いい趣味してるね。オレもエリック・ドルフィー好きなんだよ。 おお、ハズレではなくて、ホッと一息。 オレも実は聴きたいと思っていたんだよ。 カウンターの奥から取り出してきたレコードは、『エリック・ドルフィー・イン・ヨーロッパ』の第2集だった。 デンマークは、コペンハーゲンで行われたライブを記録した第2集だ。紙ジャケットからレコードを取り出し、カウンターの上に置かれていた大きな虫眼鏡で注意深く盤面をチェックするマスター。 と、思ったら、盤面をチェックしているんじゃなくて曲名をチェックしたのだそうだ。 オレってもう老眼だから。暗いところで、細かい文字は読めないからよ〜。 A面がかるのか、B面がかかるのか、固唾を飲んだ。 絡みつくような、湿度の高いフルートが聴けるA面。 自由に、それこそ重力を自由に操る術を持ったアルトサックスが縦横無尽に空間をかけめぐるB面。 このレコードには、はっきりと二種類の色がある。 どちらも素晴らしい演奏だが、結局、B面がかかった。 冒頭からスピード全開の《レス》。 ジャケットの表記は《ミス・アン》となっているが、これは誤植。 複雑なラセン状の曲線を描きながら、大袈裟ではなくて、まさに天空へと飛翔せんとばかりの肉感的な《ローラ》。 ちょっと長めの演奏だが、そんなことまったく気にならない。それどころか、“もっと長く演奏続けてくれ度”は『ファイヴ・スポット』の《ザ・プロフェット》にも匹敵する。 ドルフィーから少し耳を離してピアノにも耳を集中してみる。 ベント・アクセンだ。地味だが堅実に、ドルフィーの陰となり、曲の進行を好ナヴィゲートしている。この姿勢に好感。 《ローラ》が終わる間に、私はオールド・クロウのボンデッドをロックで4杯、彼女は舌をかみそうになるややこしい名前のアイリッシュウイスキーをストレートで3杯空けていた。 小汚くて、狭い店のカウンターで、棒を切ったように無骨なバーボンがドルフィーのアルトとともに臓腑に染み込んでゆく過程は、すなわち一言で言ってしまえば、ありきたりだけど、至福の時間ということになろうか。 レコードが終わった。 いい音楽をありがとう。 マスターにそう言った。 あんたが礼を言う必要はない。エリック・ドルフィーを聞きたかった人の半分はオレなんだから。 マスターは、ぶっきら棒に、しかし少しはにかみながらそう言った。 なんだか、キザなやり取りだが、そんなやり取りが当たり前に溶け込んでしまう空気を持った、不思議な池袋のジャズバーだった。 |
| (2003/12/17) |
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