DIG (Prestige)
- Miles Davis

  1. Dig
  2. It's Only A Paper Moon
  3. Denial
  4. Bluing
  5. Out Of Nowhere
  6. Conception
  7. My Old Flame

Miles Davis (tp)
Sonny Rollins (ts)
Jackie McLean (as)
Walter Bishop (p)
Tommy Potter (b)
Art Blakey (ds)

1951/10/05
マイルス・デイヴィスは創作料理の達人だ。

オーソドックスな定番料理から出発し、やがて独自のテイストを築き上げると同時に、少しずつ定番料理に創意工夫をこらして、様々な要素を加味し、彼にしか出来ないオリジナルのメニューを作り出していく、そんな一生だった。

しかし、そんな彼も、まだ“ジャズ”という料理の枠の中で、最大限に旨い料理を作り上げようとしていた時期があった。
その中の秀作の一つが『ディグ』といえるだろう。

きわめて強烈にジャズの匂いを正しく発散させ、真っ当な4ビートというきわめてオーソドックスな土俵の上で、その時点で己の出来うる最大限の表現をなしているのだ。

だから、いつ聴いても新鮮さは失われることはない。

スタイルの新しさ・古さよりも、現時点の自分よりも、一歩でも半歩でも新しいことにチャレンジしようと邁進する姿勢と意気込みこそが尊く、これがあるからこそ、いつの時代になっても新鮮さを失わない最大の理由なのだ。

1曲目、《ディグ》をかける。
流れ出したとたん、まるで目の前が紫煙にまみれて、薄暗くも活気に溢れる50年代のジャズクラブに様変わりする。もちろんリアルタイムで経験したことのない私にとっては、あくまで想像上での風景なのだが…。

このムードの形成に一役も二役も買っているのが、アートブレイキーのドラムだ。
演奏の推進力。
この鍵を握るのはブレイキーのドラミングをおいて他はない。

《モーニン》のようなファンキー・ジャズ的なドラミングや、豪快な“ナイアガラの滝”のイメージの強いブレイキーのドラミングだが、この時期の彼は、先述した後々のスタイルよりも、より一層アグレッシヴで、かつ知的だった。

ブレイキー本人の証言を紐解いてみよう。
「ハイ・ハットとキック(ベース・ドラム)でビートをキープし、シンバルとスネアを中心にアクセントをつけていくのが、それまでの平均的なドラミングだった。このときは、ハイ・ハットでビートをコントロールし、他のドラムスでアクセントをつけてほしいと(マイスルに)言われた。シンバルはソロイストのフレーズと連動させて細かく叩けって。ドラミング全体をうねるようなサウンドにしろともね」(※1)

今でこそ、当たり前に近いドラミングではあるが、その当時は新しかった。
そして、今でもこの新鮮さは損なうことはない。
先述したとおり、新しい試みにチャレンジしようとする姿勢から放たれる音は、時代、スタイルに関係なく、いつの時代も新鮮なのだ。レコードやCDは、それらの勢いを真空パックして後世に伝えるメディアゆえ、我々は21世紀の今日においても、50数年前の熱気を浴びることが出来るのだ。

若き日のロリンズ、マクリーンも勢いづいている。
パワフル、かつ荒削りなパワーが炸裂し、パワフルなブレイキーのドラムに一歩もひけをとっていない。いやがおうでも熱気溢れる演奏。

《ディグ》こそが、このアルバムの白眉には違いないが、《イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン》や《デニエル》、《アウト・オブ・ノーホェア》も個人的なフェイバリットだ。

ここでは《デニエル》に注目してみよう。
マイルス、頑張る。吹きまくる。しゃかりきに。ひたすらリズムとシンクロして、湧き出る旋律が流れる流れる。
アドリブのラインを丁寧に耳で追っていくうちに、これは、ある曲が土台になっていると分かれば、あなたもジャズ中級者の仲間入り。

これは、チャーリー・パーカーのオリジナル、《コンファメーション》が下敷きとなっている。
この曲を元にマイルスは白熱のアドリブを繰り広げているのだ。音数が多いのと、ディスコード(コードを外した音を演奏すること)していないので、比較的連なる音の前後の構成で、元の曲が類推出来るのだ。

さらに、マイルスのバックでオブリガードをつけるマクリーンとロリンズのユニゾンは、シンプルながらフロントを鼓舞する素晴らしいフレーズだ。

このメロディを自家篭中にしたジャズマンもいるぐらい(たとえば、ベースのジョージ・ムラーツがトミー・フラナガンの『エクリプソ』収録の同曲のベースソロでこのメロディを弾いている)魅力的な旋律といえる。

とにもかくにも、マイルスの『ディグ』は勢いに溢れる1枚。

優れたハードバップの完成型、『クッキン』や『リラクシン』の“ing”シリーズをお気に入りの方には、是非、洗練されたスタイルのこれらの演奏よりも、“知的な野生さ”がもう少し全面に出た、熱量の高い『ディグ』のほうも、遡って聴いていただきたいと思う。

※1『ブルーノートの真実』小川隆夫・著 より
(2004/12/10) 

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