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「濡れた音色」というのは文字通り濡れた音で、一体何がどう濡れているのかと問われても困ってしまう。
「これが濡れた音なんだよ」といって聴かせるしかないわけだが、とにかくビル・エヴァンスの『ムーン・ビームス』、エリック・ドルフィーの『イン・ヨーロッパvol.1』、あるいはドン・フリードマンの『サークル・ワルツ』を聴いて下さいと言うほかない。
とにかく、チャック・イスラエルのベースは濡れているのだ。
派手ではないがしっとりとしている。
ゴツゴツしていない。
フニャフニャしていない。
しなやかで弾力がある。
ノリのいいリズムはカラダが裏返る。
通常、ノリというのは音の配合、組み合わせ、音の抜き加減で決まるものだが、チャック・イスラエルのベースは音色だけで体が裏返る。気持ちいい。
自分の内臓、皮膚の裏のサイズに合わせてピタっと心地よくフィットする適度に冷たい不定形で透明な粘膜のようだ。セクシーなベースという以外になんと形容すればよいのだか。
それでも無理して考察してみると、ノリはジャストで端正、ラインの組み立ても堅実で冒険をしない。
私がJAZZ喫茶でアルバイトをしていたときに、たまたまかかったチャック・イスラエルが参加しているレコードを聞いてアルバイト仲間と雑談する内容といえば、
「チャック・イスラエルって、なんかかいいよね。」
「そう、なんかいいんだよね。」
「何でかな?」
「濡れてるからかな。」
「うん、濡れているよね、確かに」
「そうそう、やっぱり濡れてるよね。」
これでおしまい。これ以上に話題の発展のしようが無い。
地味で面白味の無いベースと言い切ってしまえば、その通りなのかもしれないが、地味で面白味のなさそうな女に妙に惹かれるちゃうことってあるでしょ?
ルックスは10人並、言ってることも面白いというよりは人並み、センスも抜群というよりは偏差値50前後、だけども何か気になって、ついついちょっかいを出してしまう女性、それがチャック・イスラエルのベースだ(うーん、よう分からん喩えだな)。
特に彼の奏法上のテクニックやアプローチに関しては、論証するほどのことは何も無い。だって彼の持ち味は、「音色」につきるのだから。
でも、不思議だよね。音色がセクシーなだけでこんなに気になるんだから。
今もエリック・ドルフィーの『イン・ヨーロッパvol.1』の1曲目「ハイ・フライ」を聴きながらキーを叩いているのだけれど、不思議だ。静かで冷静な高揚感がある。矛盾した表現だけれども本当にそうなんだ。
チャック・イスラエルのベースって本当に不思議気持ち良い。
(記:1999/03/27)
(加筆:1999/09/04)
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